プラム・ターツ 第八章 ゼックス

 ロッキーの先導で一行は体を濡らしたまま狭い換気シャフトを通っていた。子供には丁度いいが、大人は腰をかがめなければ歩けない。マルカス中佐はストーム・トルーパーのPB−147、通称パビーが運んでいる。
「プールはいざってときの逃げ道なんだ。体が冷えるから普段は使わない。」ロッキーの声は狭い通路の中で響き渡った。
「この研究所に連れてこられてからどうしてたの?」リリーは息子の後ろについている。
「最初は牢屋に入れられてた。でも、移動させられたときに逃げるチャンスができたんだ。僕を掴んでた兵隊がプラム・タートに気をとられてる間に逃げ出した。」
「それっていつの話?」
「何日か前。」ロッキーは淡々と答えた。
 リリーとジョニーは帝国の捜索を逃れるために、ずっと宇宙を逃げ回っていた。何度か危ないことも起こった。ロッキーが生まれたときジョニーはすでにいなかったが、リリーは息子のために一緒に生き延びようと決心したのだ。その逃避行の間に、ロッキーは自然と生き残る術を学んでいたらしい。
「こっちだよ。隠れ家があるんだ。兵隊の仲間もいるよ。」ロッキーは足元の金網を取り外した。
「仲間って?」
 彼らが降りたのは、狭い一つの部屋だった。壁の一面にはコントロール・パネルが並び、透明パリスチール張りの向こうには、がらんとした一つの部屋があった。そして一角には一人のストーム・トルーパーが座っていた。彼は急いでヘルメットを被り、立ち上がった。それは背の低いゼックス−1303だった。最初に偵察に行ってから帰ってこなかったトルーパーだ。
「あなた、生きてたの?」リリーが言うと、ゼックスは上官に言うようにはいと答えた。
「偵察に行って何が起こった?」オッド軍曹が彼に言った。
「偵察に向かって数分で正体不明の生物に襲撃されました。それで、ネック伍長とオージェイが死にました。私は武器を失って負傷し、この少年に助けられてここに。」ゼックスは軍曹への報告を終えた。
 リリーが見ると、ゼックスの腕は装甲を外され、包帯が巻きつけられていた。ロッキーが介抱したようだ。息子にはつくづく感心する。
 マルカス中佐は毛布を敷いた上に横たえられた。体の傷はどれも浅い。ストーム・トルーパーが彼を介抱している間に、リリーはゼックスの元へ行った。ゼックスはリリーに向かってきちんと直立している。
「いいのよ、そこに座って。」リリーが言うとゼックスはすぐに従った。彼女は負傷した腕の具合を見ようとした。その間ストーム・トルーパーのヘルメットが彼女を凝視している。
「そのヘルメット外したらどう?嫌いなの。」
 ゼックスは躊躇いがちにヘルメットを取った。普段はヘルメットを取ることを禁じられているからかと思った。しかしその顔をじっくり拝んでみると、何かが違うことに気づいた。前に見たストーム・トルーパーの素顔と違う。顔が違うだけではなかった。
「あなた女性なの?」髪は短く刈ってあるが、リリーには分かった。
「いいえ。私は男です。」そう言うゼックスの態度は様子が変だった。
 リリーはゼックスが女であることを確信した。「みんなクローンだと思ってた。」
「わたしたちはクローン人間です。」振り向くとオッド軍曹が立っていた。「我々は共通の遺伝子を持った完全なクローンです。ゼックス、ヘルメットを被れ。」
 ゼックスはすぐにヘルメットで自分の顔を隠してしまった。オッド軍曹もグルになって、彼女の正体を隠そうとしているようだ。リリーは立ち上がってオッド軍曹と向かい合った。
「どうして女が混じってるの?」
「彼は男です。」胸を張って軍曹は言い切った。そしてそれ以降は取り合ってくれなかった。これでリリーはストーム・トルーパーに対して不信感を抱くことになった。
「さあ、これからどうする?」リリーは椅子に腰掛け、全員に向かって言った。
「大尉と合流します。」軍曹は言った。
 彼らは大尉に見捨てられたにも関わらず、まだ大尉を頼ろうとしているようだ。愚かな連中だ。「それもいいけど、とりあえず体を乾かして休憩しながら、ここのコンピューターから逃走経路と宇宙船を探すべきね。その間に中佐が起きなければ、置いて行くわ。他に何かある?」
「ほぼ賛成です、ミス・グッドマン。しかし中佐殿は我々が守ります。」軍曹は言った。彼には任務が最も重要なのだ。
「お好きにどうぞ。」
 任務遂行時間はあと六時間十分。

つづく
第九章
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