脱出 後編

「マイクぅー!俺の足が飛んじまった。探してくれ。マイク!足がどこかに行っちまったんだ。歩けねえ。誰か俺の足を探してくれ。」ジョン・ベルーシはさっきからマイクに助けを求めていた。
 一方ではラーブ・ガン・ピレッジが地面に横たわり、内臓を戻そうとして自分でぐちゃぐちゃに潰していた。彼の叫ぶ声が戦場の混乱を招いていた。
 ヒュース少佐は岩から敵に向かってブラスターを撃っていた。マイクは何もせずにそれを見ていた。
「少佐、ジョンが負傷しています。」マイクは震える声で言った。「ラーブも重傷です。」
「それがどうした?」少佐の反応は冷たかった。
「いや――だから、助けないと。二人とも死にます。」
 少佐はマイクに顔を向けた。「二人が死ぬどころか全滅するぞ。俺も死に、お前も死ぬ。ブラスターで攻撃しろ。」
 マイクは肩に掛けてあった自分のブラスターを手に取った。「少佐……?」ラーブの悲鳴は途絶えていた。「自分は死ぬのでしょうか?他の皆はどうなります?ジョンが足を探しています。でも、皆の体がそこらじゅうに転がってて――少佐聞いてますか?」
 少佐は目から血の涙を流して死んでいた。
 マイクはその場を離れ、仲間の体と血が溜まっている地面を這った。彼は片足を探すジョンの元へ向かった。もうジョンの声もラーブの声も聞こえない。レーザーが地面や人の体を突き刺す音、仲間の悲鳴、兵士たちの言い合う声が聞こえる。
「ジョン!」マイクは彼の名を呼んだ。「ジョン!」
 ジョン・ベルーシは一点を見つめたまま動かなくなっていた。
 それでもマイクは呼びつづけた。「ジョン!」

「走れ!宇宙船に走れ!」バラドック曹長だ。
 抗戦していた生き残りが走り出す。地面に寝そべるマイクの横を、仲間の死体を踏みつけて通り過ぎる。顔を上げると曹長が兵士を率いて宇宙船に走っていた。煙も晴れていき、走る反乱軍の兵士に対してレーザー放射が始まった。マイクは地面からその様子を見ていた。
 全てのレーザー・ビームがそこに集中した。マイク以外の生き残りの全員が一緒に走っていた。先頭の曹長が真っ先に撃たれた。バラドック曹長は前回の任務で戦闘を生き延び、昇格した男だ。彼は今回の任務で戦闘から離れると語っていた。曹長は胸を撃たれた痛みに叫び声を上げた。
 さらに三人が倒れ悲鳴はより大きな物となった。倒れた者にも容赦なくレーザーが撃ち込まれる。一人の悲鳴は数秒で終わるが、また別の者が撃たれ、悲鳴は次々にリレーされていった。
 苦痛を叫ぶ者、死にたくないと怯える者、すでに死んでいる者。
 ストーム・トルーパーは半ばその煙の中から姿を現し始めた。恐ろしい形相のヘルメットが、ほとんど無抵抗の兵士たちにレーザーを浴びせている。彼らはどれも同じ表情をしていた。まるで人間ではないかのように、並んで行進し、ブラスターを敵に撃ち続ける。彼らは死体を跨ぎ、踏み付け、まだ息のある兵士にレーザーを撃ち込んでいく。反乱軍の生き残りは命乞いをするが、聞き入れられることもなく端から順番に撃ち殺されていった。
 マイクは何もできず、地面に伏せたままだった。そのお陰でストーム・トルーパーはまだ彼の存在に気付いていない。
 やがて悲鳴は全て止まったが、ストーム・トルーパーの射撃は反乱軍兵士の死体に浴びせられた。確実に殺すため。彼のように死んだ振りをしている兵士を殺すためだ。マイクは動けないまま、近くの仲間を直撃するレーザー光線の恐怖に怯えていた。彼は顔を地面に押し付け、人間の地と肉の味を味わった。
 そのとき、隊が全滅したと考えた宇宙船がハッチを上げて飛び立ってしまった。ストーム・トルーパーたちが宇宙船に向かって射撃を始める。
 希望の宇宙船が行ってしまう。
 マイクは立ち上がった。そして飛んでいく宇宙船に走った。「待ってくれ!行かないでくれ!」大声で叫んだ。
 すぐさまストーム・トルーパーがそれに気付く。小隊長の合図で一斉にブラスターを発砲した。
 十人分のレーザーが降りかかる。一発撃たれたときはまだ走っていた。しかし次の瞬間彼は何発もの光弾に撃たれていた。マイクは飛び去る宇宙船を見つめつづけていた。彼は倒れた。

 そのとき、空からのレーザーがストーム・トルーパーを襲った。白い兵隊は人形のように、抵抗もできないまま倒れていく。マイクは虫の息で仰向けになり、空を見てみた。
 Xウィング・ファイターの部隊が飛んでいく。三機ずつの編隊を組み、六機のXウィングがストーム・トルーパーを一掃していった。帝国軍は後方にAT-PTウォーカーも控えていたが、戦闘機のレーザー攻撃でどれも破壊された。
 そして反乱軍の歩兵部隊の援軍がXウィングに続く。彼らのブラスターは打撃を負ったストーム・トルーパーを追いやって行った。
 後援部隊の到着で反乱軍は形成を逆転した。
 マイクは横を走っていく味方の兵隊に手を伸ばした。声も出ずに助けを求めた。
 部隊の隊長がそれに気付く。「生存者がいた!衛生兵!」隊長が衛生兵を探しに行く。
 何もかも終わったのだ。反乱軍は勝った。マイクは生き残ったのだ。しかし他の仲間が皆死んでしまった。マックスも、ジョンも、ヒュース少佐も。
「こっちだ。」マイクの元に衛生兵が連れて来られる。「どうだ?」
 しかし衛生兵は首を振った。「駄目です。もう死んでます。」
「死んでる?さっきまで生きてたんだ。まだ間に合うかもしれない。」
「いいえ、もう死んでます。出血が酷い。体中穴だらけです。大尉、僕は他の兵士を診に行かないと。」そう言って衛生兵は別の場所へ走った。
 隊長のゲイリー大尉は衛生兵を止める理由も持っていなかった。彼は名も知らぬマイクの死体を見下ろし、一面に広がる血塗られた死体に目を向けた。

 一時避難していた宇宙船が戻り、戦場には多くの反乱軍兵士が到着していた。帝国軍は皆逃げていく。別の部隊は帝国軍の秘密基地に向かっている。これでこの星の帝国軍も活動を停止せざるを得ないだろう。
「ひどい景色です。」部下の一人が隊長に言う。
 隊長は頷いた。「我々が来るのが遅かった――犠牲が多すぎだ。」
「ヒュース少佐以下先行部隊は全滅です。……それと、ここの秘密基地は我々の司令部が狙っていた場所ではなかったようです。」
「今回の作戦は、これだけの人間の価値に値するものだったのか?彼らは何のために戦った?」隊長は呆然とした。「我々の求めている自由は、こんなものじゃなかったはずだ……。」

おわり

あとがき
 これは2004/05/31(月)〜06/02(水)にスターウォーズの鉄人の交流板の「自作小説発表用トピ」に投稿したものです。
 プライベート・ライアンを見て書きました。あの映画は良い……。
 で、タイトルは「脱出」としてありますが、イマイチ? いちお宇宙船で脱出するまでの話にしようと思ったんですけど、結局全員殺しちゃったのでだれも脱出できませんでした。まあそれはそれでいいか。
 あと、あんまりグロくなかった。やっぱむずいね悲惨な光景というのは血がブシューと飛び出したり、目を抉り取ることじゃないと思うんだよね。映画でいうと、ボートから降りる前に次々と撃たれちゃったり、そういうとこが悲惨なのです。取れた自分の足を探して「あんたそれ持ってどないすんねん」と思わせるところが悲しいのです。良く分かんない?
 それと、最後にマイクを死なせるか迷った。今でも迷ってます。マイクは死んで最後に「隊長」が出てきて締めましが、マイクが最後に生き残るのも良かったかも。隊長の決めゼリフがあんまカッコ良くなかったし。

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