脱出 中編

 サーマル・デトネーターが大爆発を起こす。反乱軍の兵隊は岩陰で爆発の衝撃を凌いだ後、ヒュース少佐の合図で飛び出した。
 マイクも集団の中で走っていた。爆発の煙はこちらまで押し寄せ、視界を曇らせた。希望の宇宙船の姿も砂の中に消えていった。
 レーザーは飛んでこない。マイクはいつまでも飛んでこないことを祈った。
 そのとき帝国軍のレーザー放射が始まった。爆発から一秒ほどでストーム・トルーパーは立ち直っていたのだ。右から左に赤く瞬くレーザーが豪雨のように降り注ぐ。煙の中でマイクはただひたすら走った。彼にできることはそれしかない。何も考えることができない。頭をよぎるのは自分の死だ。
 宇宙船はどこだ?百メートルの距離は彼にとって長かった。早く着かないと乱射されているレーザーのどれかに当たってしまうかもしれない。それにこの砂煙もいつまで持つか分からない。
 狙いを定めたいくつかのレーザー放射が先頭の兵士たちを襲った。一番目の兵士が撃たれ、二番目の兵士が撃たれ、三番目と四番目も倒れる。そうして次々と死んでいく。
 怖気づいた兵士が反対に逃げて来た。それが引き金となって他の兵士も次々と引き返してきた。煙の中で誰もが行き先を失っていた。
「戻るな!真っ直ぐ走れ!」
 少佐が叫ぶ。マイクはどちらにも進めずにレーザー射撃のなかで立ち止まってしまった。ストーム・トルーパーのブラスターが恐ろしい獣の声を発している。混乱の中、仲間の兵士たちはすでに何人も倒れていた。
 先頭を走っていたバルケーノ・ベルピンが倒れている。彼は戦闘機の整備士だった男で、今回は人員不足のためにこの隊に入れられていた。その彼はここまで来て敵のレーザーに倒れた。その顔はレーザーによって抉り取られ、頬がなくなっていた。そこからは並んだ彼の歯が見えている。体にも何箇所も血と肉と内臓によって汚れた傷口がいくつもあった。
 倒れる中の一人にまだ動いている者がいた。彼はジョン・ベルーシだ。シャンドリラの農民だったジョン。彼は地元で起こった出来事をいつも面白おかしく話していた。
 ――そしたらスピーダーがおじさんの納屋に突っ込んだんだ。皆必死で納屋に駆け込んだと思ったら、おじさんより中のバイクを急いで助け出したんだ。買ったばかりのバイクが壊れないように。そしたらおじさんが怒り出して、バットを振って皆を追いかけ始めた。どうだ?おもしろいだろ?続きが聞きたいか?――
 ジョンはいつも話の途中で続きを聞きたいか尋ねた。毎回毎回最後にそれを聞いてくるので、誰もが嫌になり、そのうちに「聞きたくない」と返すようになっていた。
 そのジョンは今地面を這いずり、人の残骸の中から自分の片足を探し回っていた。ジョンは立ち尽くすマイクに気付いて何かを言った。しかしマイクには一つも聞き取れなかった。
 別の場所では数人の兵士が飛んでくるレーザーに向かって反撃していた。敵はどこにも見えず、闇雲に撃ちつづけている。
 そのとき、一人が撃たれた。それは同じくシャンドリラ出身のヴァリオ・パンゼントだ。彼は少しの間を置いて銃を落とした。自分でも撃たれたことに気が付かなかったようだ。しかし喉元から出血が始まるとたまらず首を押さえ、その場に膝を着いた。いくら押さえつけても血は止まらない。その指の間から血が流れ出る。ヴァリオの隣で撃ち続けている仲間は誰も、彼に手を差し伸べることはなかった。ヴァリオは首を押さえたまま倒れ、そのまま動かなくなった。誰も死んだヴァリオには無関心のようだ。それどころかパワー切れを起こした兵士が彼のブラスターを拾って使い始めた。
 次の瞬間爆弾が投げ込まれ、彼らは吹き飛んだ。揺れる地面。為す術もなく宙を舞う兵士たち。ほとんどの者が少なくとも体の一部分を失った。皆の腕や足が飛び、下顎を失う者もいた。片腕が飛んだことにも気付かずに逃げていく兵士がいた。
 その爆発の中から、腹に大穴を開けた兵士――ラーブ・ガン・ピレッジがマイクに向かって歩いてくる。ラーブは腹からこぼれ落ちる腸を抱え、元に戻そうと腹に詰め込んでいた。彼は背中を撃たれ、その場に倒れこんだ。
 ヒュース少佐が走ってくる。彼はマイクに何か言っていた。大口を開け、形相を変えて全力疾走してくる。
「――伏せないか!聞こえないのか!地面に伏せろ!」
 そのとき、マイクは今まで耳が聞こえなくなっていたのに気付いた。耳が元に戻ると途端に恐ろしいブラスターの音が何発も近くを横切り、耳を詰まらせた。
「伏せろ!」
 少佐はマイクに飛び掛って地面に押し倒した。それから彼らは近くの小さな岩に身を隠した。
後編
Indexに戻る