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脱出 前編 反乱軍の歩兵部隊はこれまでにない危機に瀕していた。ヒュース少佐に率いられた即席の歩兵中隊は、この岩山の惑星にある帝国軍の施設を叩いてきたところだった。この作戦のなかで隊員の半分以上が死に、残り三十名ほどが敵の追跡を逃れてきた。 しかしもう少しで脱出用の宇宙船に着くという所で、帝国軍のストームトルーパー部隊に足止めを食らっていた。宇宙船は百メートル先に見えているが、一歩岩陰から飛び出せば敵のレーザー放射が飛んでくる。宇宙船までにはたいした遮蔽物もなかった。 マイクは部隊の中の生き残りの一人だった。彼は作戦で多くの戦友を失った。 一人はトラン・ボジェード。彼は兄弟を帝国軍に殺されたことで反乱軍に入った。両親は早く死に、一番兄の彼が兄弟たちを養っていたのだ。彼は帝国軍に復讐を誓っていた。今回の作戦に付くと決まったときは、敵を一人残らず殺すと豪語していた。しかし彼は最も危険だった基地内突入の際にレーザーに撃たれて死んだ。 一人はリ・バン。帝国から亡命してきた工作員で、今回の作戦では基地の指令回路を破壊するための技術士として働いた。彼は指令センターに侵入し、任務を遂行したが、敵が投げ込んだ爆弾で他の三名の兵士と共に飛び散った。 一人はアンメドリ。彼はかつて反乱軍が行った地上作戦の英雄だった。中尉の地位につき、体長のヒュース少佐の補佐をしていたが、彼も基地内突入の際に死亡した。 一人はボマート・ラス・ベシーヌ。彼は反乱軍に加わったばかりの新米兵士だった。彼はタトゥイーンで実家の水分農業を手伝っていたが、兼ねてからの夢だった反乱軍に反対を押し切って入隊した。今回が初任務だったが、目的地に到着する前に道に迷って行方不明になった。 一人はシュン・ファング。インペリアル・シティーで元老院議員だった母親を殺され、反乱軍に加入。立作戦側の人間だったが、今回の任務を速やかに遂行するためには自分が必要だと、自ら作戦に志願した。しかし基地から脱出する際に足を撃たれ、動けずに一丁のブラスターで抵抗していたが、部隊は彼を置いて逃げてきた。 一人はマックス・ジーム。彼はマイクの親友だった。作戦でも行動を共にしていたが、走っている間にいつの間にか消えていた。振り向くと、片腕を失い、床を張ってマイクに助けを求める彼の姿があった。基地突入のときだ。あの時の目――痛みと、それ以上の絶望を詰め込んだ目。 マイク、助けてくれ。置いていかないでくれ。マイク―― マイクは彼を見捨ててきた。マックスを引きずってでも連れて行くべきだったのだろうか。しかしあのときは到底他人のことになど気に留めている余裕はなかった。それが例え親友であっても。 これはマイクが体験した中で最も悲惨な作戦だった。多くの者が何もせずに入り口で死んだ。多くの者が爆弾で吹き飛ばされ、バラバラになり、空中で広がった血と肉片が生きている者たちの上に降り注いだ。ある者はかすり傷に気を取られ、敵のレーザーに撃たれた。ある者は怖気づき、動けなくなったまま穴だらけにされた。 どこを見ても味方の痛々しい最期があった。見る気はないのにそこらじゅうでそれが起こっていた。この現実から逃れるには目を瞑るしかない。しかしその行為は自分の死を意味している。長く生き残るだけ多くの死を見ることになる。どうせ死ぬなら早く死んだ方が増しだ。 しかし彼には死ぬ勇気もなかった。ましてやすぐ隣で死と背中合わせになると、彼はそこから逃げ出すことしか頭になかった。結局彼は銃を撃つこともなく、レーザーを掻い潜ってここまで逃げてきた。 今回の作戦で死んだ兵士たち、彼らが今まで生きていた意味はあったのだろうか?彼らはここで死ぬために生まれ育ってきたのだろうか?この広大な銀河のためになったのだろうか?この辺境惑星の帝国軍の秘密基地を叩くことは、消えた四十四名の命より大切な物なのか? 「威嚇射撃をしたら、あの宇宙船まで突っ走る。一人ずつ行けば皆殺しだが、全員で飛び出せば、魚の群れに食らいつくサメだ。一人が食われてる間にもう一人が逃げきれる。」 ヒュース少佐は冷ややかにそう言った。 「飛び出せば、真横からレーザーの水平放射を食らいますよ。」現状では二位にあたる曹長のバラドックだ。 「ここにいたら全員死ぬ。爆弾の残りを集めろ。誰かサーマル・デトネーターを残してないか。敵に向かって投げたら合図で飛び出せ。」少佐はいくつもの戦場を切り抜けてきた熟練兵だ。その表情には、今まで経験してきた多くの悲しみを蓄積していた。「たしかアンメドリが持ってたはずだ。」 「アンメドリは戦死しました。」バラドック曹長が答える。 「それじゃあ、マックスか、ベンダロンは?」 「皆突入のときに戦死してます。」 少佐は静かに舌打ちをした。「くそ、突入が一番激しかった。誰かサーマル・デトネーターを持ってないか?」 マイクはほとんど上の空で上官の言葉を聞いていた。ここで全員死ぬことになるかもしれない。危険はこの大きな岩を一枚挟んで向こうに迫っている。自分は逃げ切ることができるのか。サメに食われる方になるのか。そして折角ここまで生き延びてきた他の戦友たちは?どんなに良い見通しを持っても、宇宙船に駆け込むまでに必ず誰かが死ぬことになるだろう。 マイクは怖かった。死ぬかもしれないところに自ら入り込んでいくなんて。 彼が何気なくポケットに手を入れると、不意に丸い物を掴んだ。取り出した見るとそれは一つのサーマル・デトネーターだった。突入の前にマックスが持っていたのを受け取った物だ。 「し、少佐、サーマル・デトネーターが一個ありました。」 少佐はマイクの元に歩み寄った。「よくやった。これで敵を吹っ飛ばす。タイマーは六秒だ。爆発が起こったら、全員飛び出せ。敵は怯み――煙が舞って視界が悪くなる。その隙に逃げ切るんだ。宇宙船もいつまでも待ってはくれない。」 行くぞ。そう言って少佐はサーマル・デトネ―ターを敵に向かって投げた。 マイクは全身に緊張を感じながら、走り出す心の準備をしていた。 |