TIEパイロットDS-360-17 第三章

 その日、洞窟の家に帰って、少年は炎の光を頼りに通信機をバラバラにしていた。安物の中古通信機は作動せず、分解して修理しているのだ。360-17には機械を直すような知識はなく、ただ少年の作業を眺めていることしかできなかった。
 これは彼にとって非常に好都合。少年が勝手に通信機を直してくれる。
 そう思っていいはずなのに、なぜか今の彼はこの少年に対して申し訳のなさを感じていた。 「なあ」彼は礼の一言でも言おうと声をかけてみた。
「何?」
 しかし情けないことに、いざとなるとその一言が言えないものだ。帝国アカデミーではお礼の仕方などは教えてくれなかった。「その……さっきの話だけど、お父さんとお母さんてやつ。それがどうしんだ?」自分は何を言っているのか。
 少年はドキっとしたように作業の手を止めた。そして話し始めた。「僕たちは宇宙船でこの星に来たんだ。お父さんとお母さんと一緒に。お父さんが帝国軍に追われててそれで――でも、お父さんは何も悪いことはしてないんだ。お父さんの仕事の相手がたまたま反乱軍で、お父さんはそれを知らなくてクルーザーを売ったんだ。で、反乱軍に協力したってことになって。
 タトゥイ―ンに逃げてきたんだけど、帝国軍の白い兵隊がやってきてお父さんとお母さんを殺した。僕は隠れてて助かった。それで、ここでよく遊んでたからここに住みはじめたんだ」
 自分は何てことを聞いてしまったのだろうか。本当は礼を言いたかっただけなのに。「それならなぜ俺を助けてくれた?帝国のパイロットの俺のためにどうしてこんな……?」
「おじさんはいい人だから」
 彼は自分が恥ずかしくなった。俺はこの少年を利用しようと思っていたのに、少年は俺のためにこれだけ尽くしてくれている。俺は人間のカスだ。彼の目は自然と涙を流していた。「俺は……本当はお前のことを上手く利用してやろうと……そう思ってたんだ。なのにお前は……。俺はいい人なんかじゃない!」
 少年はそんな彼に笑って見せた。「ふふ、大人も泣く人っているんだね」
 彼は顔を上げることもできずに涙を腕で拭った。
「古い機械は作りが簡単なんだ」少年は言った。「こうやって中身を磨いて組み立てなおせばだいたい動くようになるよ。明日試してみようよ」

 その夜、彼は夢を見た。彼はTIEファイター・ソーラー17に乗って宇宙を飛んでいた。
『ソーラー20はブリッジを援護しろ!』ソーラー・リーダーだ。
『援護しろだと?デストロイヤーはもういないぜ!』ソーラー12がゲラゲラ笑う。『俺たちは見捨てられた。俺たちは全員死ぬんだ!』
『こちらリーダー。ソーラー17はソーラー4を援護しろ』
『もう死ぬんだぜ。わるあがきはよせよ!』
『ソーラー17何をしている?ソーラー17、援護しろと言ったはずだぞ。ソーラー17!』
 場面は砂漠に移った。
『こちらソーラー9。敵は自分がやります』
『ソーラー9、早くしてくれ。敵が撃ってくる!』それは自分の声だった。
 しかしソーラー9は助けてくれなかった。『バカどもが、俺が反乱軍のスパイだということも気づかずに』
 ソーラー9の裏切りだった。彼はソーラー9のレーザー放射に撃たれた。コックピット内に警報が反響し、脱出できずにTIEファイターは爆発した……!

 目を覚ましたとき、彼は暗闇の中で何かの声を聞いた。獣が入ってきたのかと思うと、それは少年がすすり泣く声だった。それが洞窟の中で何度も反射していた。
 彼の前では我慢して笑顔を見せていたが、まだ小さい子供が親をなくして平気でいられるわけがない。もしかすると、少年は毎日こうして泣いてきたのかもしれない。

 朝になり、彼はその通信機で通信を試みた。パワー源は少年のジャンクコレクションの中から拾った。彼は帝国アカデミーで習ったSOS信号を送りつづけた。
 リーダーの手当てをしてきた少年が洞窟から出てきた。「包帯換えといた。そっちはどう?」
「こっちはまだ分からん」
 少年は信号を打ちつづける彼に近付いた。「ここのスイッチで信号を記憶させれば、あとは自動的に発信してくれるよ」
「教えられっぱなしだな」彼は苦笑いした。「アカデミーなんて行っても無駄だな」冗談でそう言った。
「獣を捕りに行こうよ。おじさんの銃で一発だ」
 二人は峡谷に入っていった。
「帝国軍に連絡できたらどうするの?」少年は言った。
「そりゃ軍隊に戻る。たぶん新しい中隊に編入されるだろう」
「宇宙で戦ったことあるの?」
 宇宙で戦うどころか、戦いを見てただけだ。「……ああ、あるとも。名パイロットさ」思わず強がりを言っていた。
「へえ、凄いや!」少年は声を張った。「僕に操縦の仕方を教えてよ。僕もパイロットになりたいんだ」
「宇宙で戦いたいのか?」
「ううん。宇宙船が飛ばせたら、どこにでも行けるでしょ。故郷の星に帰ったら友達も親戚もいるから」
「言葉で教えるのは難しいな……」
 二つの太陽が真上に昇る頃になっても、彼らは何匹かの小さいネズミを見かけるに留まっていた。
「一昨日も宇宙で戦ってたんでしょ。僕見てたんだよ。話を聞かせてよ」
「うん?俺はソーラー中隊でソーラー17に乗ってた。味方の戦艦を敵の戦闘機から守ってた」
「敵を撃ち落したの?」
 少年が期待を込めて訊いてくるので、また悪魔が囁いた。「あ……うん、三機は落した」
「へえー、やっぱり名パイロットなんだね」
「だけど、その戦艦がハイパースペースにジャンプして――ハイパースペースって分かるか?」
 少年は早く続きが聞きたそうに頷いた。
「俺たちは宇宙に取り残された。味方もほとんど落されてた。それでこの星に逃げてきたんだ。敵は一機。俺とリーダーが敵の気を引いている間に、ソーラー9が敵を撃ち落すはずだった――」彼はそこで言葉を切った。夢のことがまだ気になる。
――バカどもが、俺が反乱軍のスパイだということも気づかずに――
「あれ見て!」
 少年が指す方向には一メートルほどの大ネズミがいた。「獲物がいるよ。あれがちょうどいい」
 すかさず彼は小型ブラスターでその大ネズミを撃ちぬいた。
「おじさん、射撃もうまいんだね」
 少年がそう言った瞬間、奇妙な雄たけびと共に何かが岩陰から現れた。
「サンドピープルだ!」
 サンドピープルと呼ばれるその生物はヤリか何かを掲げて叫んでいた。しかもそれは二人いた。ブラスターを向けたが、瞬く間にヤリで銃を弾き飛ばされてしまった。彼はヤリで殴られてその場に倒れた。
「おじさん助けて!」
 少年がサンドピープルに捕まっていた。彼は立ち上がったが、もう一人の方が彼の道を塞ぐ。彼はサンドピープルのヤリを掴んで奪い取った。ヤリを大きく振って相手を突き飛ばし、少年を助けに走った。
 少年を掴んでいたサンドピープルはその手を離して、彼に向かってきた。彼はヤリの攻撃にヤリで防御した。しかし今度の相手は手強かった。彼は飛ばされてしまった。相手は最後のとどめを刺そうと走ってくる。
 そこで彼は落ちていたブラスターをすぐ近くに発見した。それを拾って地面に寝転がったままサンドピープルに向け、撃った。
 銃声が響き、戦いは終わった。彼は少年の元に走り、そして何のためらいもなくその体を抱きしめた。
最終章
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