「羊の皮を被った狼」とは、狼が変装をして羊の群れに紛れ込み、羊たちを欺きつつ日々の食事にありついたという話から、猫を被って人を利用する性格の悪い人のことを言うらしい。今回の特集はそんなことわざとは似て非なるお話。
さらにインペリアルについて重大な新事実が発覚したので、記事の一番下で報告する。

ぱっと見同じ
チープミニカーを集めている人ならこのポルシェ944がサマー製であることがすぐに分かるはず。さらに奇特な人なら、右の944が少しおかしいことまで察知するかもしれない。ナンバー118のラリー仕様風タンポは、サマーの944では定番のカラーリングとなっている。特にここ10年以上は赤色が現行カラーになっているようで、この白/緑タンポとの組み合わせで見かけることが多い。ちなみに白/緑は一つ前のバリエーションで、現行モデルは黄色/緑タンポになっている。
さて右の944も一見サマー製に思えるが、よく見るとサマーではあまり使われていない8ドット・ホイールが付いている。ボディの形も少し違うような気がする。ここでこの2台の隣にインペリアルの944を並べてみる(下画像)。そうすると、この944はサマーよりもインペリアルの方に近いことが分かるだろうか。インペリアルの944自体サマーを元に金型を作ってあるようなので、どれも形はよく似ているのだが……。

よ〜く見る
この3台を並べてじっくり観察してみる。同じだと思っていた赤い2台にはいくつかの相違点がある。


何れもフロント下部のボディが下に回り込んだ部分は、シャーシの延長によって補っている。サマーはその部分にも実車を意識した造形がされている。これは944ターボで採用されたフラットなバンパーを表現している。しかし右の2台はツルツル。後ろ向きにしてみるとさらに大きな違いがあった。テールライトもバンパーもしっかり再現してあるサマーに比べ、やはり右の2台はとても作りがユルく、形も実車と違う。
色はそっくりな左の2台。形が共通している右の2台。果たしてこの真ん中の944はサマーなのか、インペリアルなのか困ったことになった。
答えはシャーシに
正体の分からないミニカーがあったら、まずひっくり返してみるというのが謎を解く近道である。サマーの品番は8804、インペリアルの品番はTC-9323である。サマーのようにメッキで仕上げられた問題の944のシャーシには、はっきりとTC-9323という文字が刻印されていた。シャーシの形も黄色のインペリアルとほぼ同じであることから、これはインペリアルと同じキャストということで確定である。
インペリアルは歴史的に黒シャーシから銀メッキ・シャーシへと移行していくので、この黄色い個体よりも新しいバージョンであるようだ。金型も黄色より疲れている感じが見受けられる。接地面がフラットな8ドット・ホイールというのも最近のインペリアルの特徴である。
2つの香港系
サマーもインペリアルも香港系メーカーである。サマーはチープな作風ながらこの944のように、プロポーションや車種選択の良いモデルが見受けられる。一方のインペリアルは「バチモン」というMADE IN CHINAのイメージを地で行くメーカーである。こちらもチープな作風ながら、どこかで見たことのあるフォルムが多く、この944もサマーが元ネタになっているようだ。黄色のように比較的古いモデルは塗装の質が悪く色の艶もない。
ボディに艶が出るようになり、タンポ印刷に2色使われるようになった製品がこのサマーモドキである。黄色もオリジナルのサマーからすると劣化コピーだが、さらに最近のインペリアルは金型の劣化が激しい。真四角になったリアクオーター・ウィンドウや、太いCピラーの形をサマーと比べてみるとその違いが分かる。横から見るとインペリアルは若干ボディが平べったいことが分かる。
サマーかインペリアルか
このようなコピー物は中国系ミニカーにはとてもよくある。しかしその多くは形を真似ることはあっても、そのカラーリングまでそっくりにするというのはあまり例がない。それがこのインペリアルの面白いところである。インペリアルには他にもサマー・コピーの車種が存在するが、最初の頃はタンポまでコピーはしていなかった。インペリアルがサマーモドキを産み出したのは、金型も疲れてきた今頃になってのことである。それはなぜか。
一つの可能性として、これはインペリアルの金型を使ったサマー製であるという説が考えられる。サマーがもしインペリアルのTC品番金型を買い取っていたとしたら……?近年のインペリアルの作風の変化(メッキシャーシなど)もサマーによるものだからと説明できる。もしこれが本当だとすると、インペリアルがサマーをコピーしていたということを、サマー自身が認めたことになる。
それとも本当にインペリアルがこのサマーモドキを産み出したのだろうか。このタンポをよく見ると、実は少し形が違っていることに気づく。つまりタンポ印刷の版元は別々に存在するということである。両方サマー製ならば同じタンポを使えばいいはずである。
奥深き3インチの世界……とにかくあちらの人々は真似るのが大好きらしい。
という記事を書いた後、ある方から良いことを教えてもらったので、以下に書いておく。
Imperial と Tai Cheong
先月紹介した金メッキのソービを売ってくれたP氏と、その後も色々とメールの遣り取りをしていた時、インペリアルの新たな事実が発覚した。今までTC番号の付くモデルはインペリアルとして扱ってきたが、本当の製造元はタイチョン(Tai Cheong)というメーカーであるらしい。TC=インペリアルだとしばらく信じていたのでこれを聞いた時は少し衝撃を受けたが、同時に納得できる話だと思った。Tai Cheongという名前は、なぜTCという二文字が使われているのかという謎への解答である。例えばティミートイ(Timmy Toys)の品番はTMで始まっていたり、サマー(Summer)の品番にSが付いていたりと、裏板に刻印された品番には何かしらの理由がある。画像はP氏が送ってくれたタイチョンの959。僕が既に持っている二種類の959キャストとはまた別のモデルだった(下画像参照)。
このサイトで初めてインペリアルを紹介したのは2004年4月号 ミニカー帝国を築け!インペリアル特集である。裏板にTC品番と生産国しか書かれていないこのミニカーをなぜインペリアルとしたかというと、トイカー・ウェブジンのこのページ(Imperial Diecast of Hong Kong)を見たからだった。しかしTCモデルたちがタイチョンであると分かった今、インペリアルとは一体何だったのかというと、タイチョンから供給を受けて自社パッケージにして売っていた会社らしい。つまりタイチョンとインペリアルは、マイストからOEMを受けるエドカーというような関係であった。シャーシにはTC番号しかなく、もしパッケージにインペリアルと書いてあったら、そのミニカーがインペリアルの物であると思って当然だろう。ちなみにインペリアルはタイチョン以外にも色々なミニカーを取り扱っている。
TCはタイチョン
さてこれから、TCモデルをどう呼ぶかという問題ができた。タイチョンのミニカーが全てインペリアルによって売られていたとは限らない。実際に日本では「スーパーカー」という名前で単品ブリスター物が存在する(ただしそれがインペリアル経由ではないとは言い切れないが)。P氏はタイチョンの名前で売られているのをアメリカで見たことがあるそうだ。TCはタイチョンである、というのを今は僕の結論とする。
画像は比較的日本に広く普及した「スーパーカー」ブリスター。中身はタイチョン以外のメーカー品もあった。画像の物は共にタイチョンではない。