PORSCHE
信沢 保の
PORSCHE 特集
のページ

特集では、メインのページだけでは紹介しきれないことを、解説していきます。


2005/6月号
栄光の935


 今回はミニカー・メーカーの特集ではなく、ポルシェのレーシングカー「935」についてその歴史を追っていこうと思う。通常展示の935のページに書いてもいいが、まだよく分からない部分があるので、あっちに載せるのはこちらで考察してからということにする。以下史実とボクの想像が自然と混ざっている(いつものこと?)可能性があるので、935のことを知る参考程度にしてもらいたい。

935以前のレーシングカー
 911は古くから多くのレースに活躍していたが、最初に911をベースとしたレーシングカー1967年911Rで、935へとつながる最初のレーシング911は1973年(モデルイヤー)のカレラRSとRSRだった。70、71年でポルシェは917で世界メーカー選手権を制覇したが、完全にポルシェ有利となったためルール変更でこれを追い出された。917はターボを積んでアメリカのカンナムに移行したが、こちらでも勝ちすぎのためターボ禁止というこちらでもルール変更が行われ、917はレース界から締め出されてしまった。その頃、メーカー選手権タイトルは1975年辺りから新グループ5、市販車ベースの車両でレースする見込みだったので、ポルシェは現行911を改造したマシンの開発を始めた。
911 Carrera RSR TURBO
 911カレラRSR2.8、RSR3.0と続いて、1974年に登場したのが911カレラRSRターボだ。これは完全にグループ5を前提とした先行試作車だった。フラット6エンジンにカンナムでその実力を証明したターボ・チャージャーが載せられた。この車はあくまでグループ5に向けた試験的な車、というポルシェの認識を裏切ってメーカー選手権でシリーズ3位という結果を残した。
 この車はすぐあとに登場する930ターボへとつながる。
[写真] Shinsei PORSCHE 911 CARRERA RSR TURBO

935/76
 1976年、メーカー選手権の新ルールによりグループ5で争われることになり、グループ6が独立して世界スポーツカー選手権となった。グループ6の方には936が送り込まれ、待ちに待ったグループ5には935が登場した。これは76年モデルとして前年に登場した930ターボ(試作車は73年からあった)をベースとしたレーシングカーだった。
935/76
 ルールでは市販車のブロックとクランクケースを使えば排気量も自由で、ポルシェは4Lクラスを選んだ。ポルシェは軽量化が得意であり、935は規定の970kgを下回ったので重りを積んで規定値に合わるほどだった。シルエットが変わらなければ改造はかなり自由で、ドア、フード、フェンダーがFRPで作られ、窓はパースペックス製(風防ガラス用の透明アクリル樹脂)となった。そして911の特徴であるフロントノーズを真っ平らにして、ライトをバンパー内に埋め込んだ。911のライトは空力を考えると好ましいものではないと思われる(のちの911の目はだんだん寝てくる)ので、この変更は当然といえば当然だが、このことはこのあとの話に関わってくる。ターボで圧縮された空気を冷やすためにインタークーラーを装備するが、最初は空冷式でルール上の問題で水冷式になった。この変更がレース前なのかは謎。

[写真] High Speed, Welly, Zylmex PORSCHE 935/76
 RSRターボ同様マルティーニ・レーシングから935はエントリーされ、白いボディにマルティーニストライプが入れられた(RSRターボはシルバー)。ヨッヘン・マス/ジャッキー・イクスによって運転され、ムゲーロ6時間、バレルンガ6時間、ワトキンスグレン6時間、ディジョン6時間と7戦中4戦を制した。これによってBMW3.5CSLを負かしてシリーズ優勝、ポルシェターボの実力を見せつけた。
 とまあ、935の1976年の歴史はこういうことになっている。ここまでは良いのだが、問題は935のボディである。下の画像を見て欲しい。どうやら、この三種全てが76年シーズンの935、いわゆる935/76であるようだ。日本語の本であまり紹介されていないので、935の外観の識別はここ数年までボクにとって謎だった。ここでは935のボディタイプについて触れたいと思う。小スケールミニカーでそれぞれメーカーが違うので比較しづらいが、左から右へと進化していくようだ。
935-76
935-76
935-76
High Speed
Welly
Zylmex
 左のは最も初期のタイプ。911のヘッドライトを残したままのバージョンで、トミカからもモデル化されている。これについては一年程前の特集ですでに触れている。当時グループ5のルール変更が遅れたことが原因で、二台作られたうちの一台がカエル顔で作られたらしい(935-001)。カーナンバー1でプラクティスカーとして使われたと自分で書いたが、今となってはソースが謎。ネット通販で売ってるカエル935のミニカーなどをみると、バレルンガで走ったのかもしれない。
 調べてみるとシャーシナンバーは「930 670 0001」でプロトタイプとある。935の開発中にテスト走行を受け、五月のニュルブルクリンクでプラクティスカーとして使用され、それ以降ルマン24時間などは普通に出場していたようだ。935-001はStommelen/Schurtiが運転し、ルマン24時間で総合4位グループ1位、ワトキンス・グレン6時間で優勝していた(上記4冠のうちの一つ)。1998年にGunnar氏に売られたという話なのでまだ現存していそうだ。1977年のデイトナ24時間以来レースに出ていないようだが、どういう状態なのか気になるところだ。フラットノーズに改造されているのかどうか知りたい。
 で、普通のフラットノーズの方は中央画像、こちらが935の基本形である。935-002、シャーシナンバー「930 670 0002」で一桁違い。マス/イクスが乗ったのはこちらで、残りの3冠を取っている。スラント・ノーズ、ロング・リアー・ウィングスとあるが、001よりウィングが長いのだろうか。確かにミニカーだと001はちょっと小さめだが、トミカ版は同じくらい大きいリアウィングが付いている。ていうかトミカ持ってない。トミーさん早くカラーリング完璧再現でリミテッド化してください。
 そしてまた謎を呼ぶ右の935。後ろのフェンダーが四角く膨らんでいる。前はネットで調べて935/79だと思ってた。しかしこれも76年のモデル。どうやら上で書いた「空冷から水冷になった」というのが、このフェンダー形状の変化と直結するようだ。新潮文庫の「世界の名車〜」によると水冷になった後期方で、テールまで一体になったフェンダーが特徴とのこと。001か002を改造したのか、新しく作ったのかは分からないが、恐らくは改造したものと思われる。大きいスケールのミニカーだとむしろこのタイプの935/76が多いようだ。ちなみにミニカーはシルバーだが、実車では白。ジルメックス版には白もあるようなのでぜひ手に入れたい。
935/76
935/76
935/76
Tonka 935-76

 三台全て935-76の後期タイプ。これは工事車両のおもちゃとかを作っているトンカのおもちゃ。メイド・イン・ジャパン。微妙な位置にオレンジ色のスイッチがついているが、遊び方がいちいち謎。裏に説明のシールが張ってあるが、7割方剥がれているので余計に謎。
Unknown 935/76

 品番8238、香港製のおもちゃ。ラジコン?香港だけあって完璧なマルティーニ・ストライプとポルシェのマーク。どうどうとMARTINI PORSCHEと書いていいような、いい時代の産物だ。
Daishin 935/76

 推定1/12のラジコン。本体のみ100円で購入。かなり忠実に再現されている。しかしリアフェンダーとサイドのストライプが途切れているのが実車とは異なる。でも3号車ってあったのかな。裏には1977とある。この時代マルティーニカラーの935が多い。

934
 流れに乗ってこの車も紹介。ていうか、TLSの934があるんだから常設展の934のページ作れよという話。76年ポルシェはグループ4、5、6にそれぞれ93X(Xにはそのグループの数字が入る)という名の車を用意していた。934、935は930ベースであることからのネーミングだが、スパイダー・ボディの908/03や917/30の流れである936に関しては統一性を出すためという理由でこの番号になったと思われる(根拠なし)。
934
 935の弟分として、グループ4向けに作られた934。改造規定が厳しいので、より930に近い。30台が作られ、個人に売られていった。シャーシナンバーは「930 670 0151」から「930 670 0180」の30台。飛んで「930 670 0540」という番号の車両が一台作られている。これはKlaus Dreesという人に売られ76年のニュルブルクリンク1000kmに出場し、1977年に多くのレースに出場している。猫の本では30台生産ということになっているが、この31台目がどういうことで作られたのかは不明。76年のレースには一つしか出ていない。
[写真] Tomica Limited S PORSCHE 934

935/77
 935登場の翌年、935は935/77へと進化した。これによって最初の「935」は935/76と呼ばれるようになった。この車からツインターボになり、ターボ特有のスロットル・レスポンスのタイムラグ減少に重点を置いて開発された(※注。ボディ形状はより空力対策が強化されたものとなり、サイドステップが付き、リアカウルと一体のリアウィングは前年のそれよりもこじんまりとした物になった。
※注 ターボは、排気管内のタービンを排気圧力で高速回転させるという方式を取っており、エンジンが回転してからタービンが回るまでのタイムラグが発生する。これにより、スロットルに遅れてエンジン出力が増すという現象が起こる。
935/77
 このミニカーは今までなんとなく935だと思っていたもの。今回特集を書くにあたって色々ミニカーを出してみたり、調べていたりしていて935/77であるという結論に達した。サイドステップからつながる丸みを帯びながらも平坦なフェンダー(ちょっと平ら過ぎ)、小さなリアウィングの形状、フロントに二本入った凸のスジ(これはフェンダーミラー)などの特徴から明らかになった。今まで935/77はコーギー版を手に入れるか、さらに入手困難なシグマ500やダッパーしかないと思っていたので、うれしい発見だった。シグマ500は中古屋で一度セリカを見つけたことがあるので希望なしではないが。
[写真] High Speed PORSCHE 935/77
 ワークス用に「935/77-003」、「935/77-004」、「935/77-005」の三台が作られ、主にレースに出ていたのは005のカーナンバー40の車。004はムゲーロ6時間に一度だけ出て事故をしている。
 77年も白のマルティーニカラーで出場したが、マス/イクス組の車はマイナー・トラブルが多発してリタイヤということが多かった。しかしプライベートに13台売られていた935/76仕様の車が活躍し、全8戦をポルシェが制した。このことによってまたもやポルシェの常勝となったグループ5は、早くも低調なシリーズとなってしまった。
 何かの935のおもちゃ。黒にマルティーニカラーのシールが貼ってある。やはり、おもちゃの分際でマルティーニのストライプを再現するのは難しいようで、サイドステップまでつながるはずのラインが省略されている。マルティーニカラーは40番と41番が存在している。41号車の写真が紹介されることが多いが、実際レースで多く走っていたのは40号車の方。見えにくいがサイドウィンドウの後ろに、エアインテークの穴が開いているのが分かる。
 電池を入れるとギーガーという音とともに、レースカーどころか車とは思えない奇怪な動きをする。なぜかパトランプが付いているが、光るおもちゃではない。このリアルと子供だましの融合具合は今のおもちゃにはない。
[写真] Unknown PORSCHE 935/77
935/77

935/78
 1978年935の最終形態935/78、いわゆるMoby Dick(H. Melville作の同名の小説に登場する白鯨)が登場した。ロングテール・ボディのルマン専用マシンといえる。パイプフレームのシャーシを持ち、出力780ps、最高速度355km/hに達し、最強の911の一つとなった。ワークス用に「935/78-006」と「935/78-007」が作られ、006はシルバーストーン6時間でラップコードを塗り替えて1位になったものの、ルマン24時間ではエンジントラブルで結局4位に終わった。結局四つのレースにしか出場せず、残りの2レースもトラブルで勝つことはできなかった。今はポルシェの博物館にある。
 そして007の方はワークスカーということになっているが、Kerry Morseが最初のオーナーとなってアメリカに行った(?)っぽい(?)。でもなんかレースに出てないようなのだが、今どうなっているのだろうか。この人はワークスの935/77-004も買っている。
935/78
 935はプライベート向けに、78年に25台、79年に32台生産、販売されたことになっているが、その935がどのような仕様だったかは手元の資料では謎である。たぶんモビー・ディックじゃないと思うが。935/77に近い車だったのかな(?)
 79年からはクレマー・レーシングから935K3が売られ、ワークスに代わってプライベートが活躍した。80年のK4では外観がモビー・ディック並になったとされる。K3は有名だが、K4はこんな感じ→グーグル画像検索結果
[写真] Welly PORSCHE 935/78
 小スケールの935-78たち。ウェリー、インペリアル、そしてサマー。たぶん小スケールではトミカがベストかと思われる。しかしこれもまた持っていなかったりする。936と合わせて935/78もリミテッド化希望しておく。ウェリーとインペリアルはそれぞれトミカを元にして作られたと思われる。インペリアルはウェリーよりもユルい出来だが、リアウィングが別パーツで再現されている点が優れている。サマーは屋根から後ろにかけてのラインがおかしい。かといってフロントやサイド部分はおかしくないということもないが。
[写真] Welly, Imperial, Summer PORSCHE 935/78
935/78
 78年、全13戦のうち5戦が中止され、シリーズはプライベート・ポルシェの争いで終わった。ポルシェはこのシリーズに価値を見出せないとして、グループ5からの撤退を決めた。81年にはグループ5は消滅。カンナムのときにそうだったように、ポルシェの速さがもたらした結末だった。

謎の935
 正体不明な935。レーシングカーゆえに決まった形がないので車種の特定が難しい。
935
 よく知られているマッチボックスの935。車名はPORSCHE 935としか書いていない。一見すると935/77のように見えるが、ワークスカーのどれにも当てはまらない。刻印が1983なので、ワークスマシンをモデル化するには時期が遅れている。サイドステップは77の特徴だが、リアフェンダーは76の後期型と一致する。ウィングは77のように小さな物だが、左右に妙に広がっているのが謎。フロントフードは突起物がなく平らである。
 リアフェンダーのエアインテークは77よりも935K3に似ていて、フロントライト周りの形も似ているが、K3はこんなリアウィングではなく、この時代どこのチームもこのタイプのウィングは付けていない。それと湾曲したリアフェンダーが76後期っぽいのが引っかかる。ウィングステーまでつながるルーフからのラインはK3そのもの。
 ウィングはチームごとに代わる部分だからどうにでもなるとして、リアフェンダーの形状は見逃しても最終的に935K3という結論でいいかもしれない。
[写真] Match Box PORSCHE 935
 大きいやつにFEと書いてあるので、小さいのも多分FE。小さいやつは車輪がシルバーのものと黒のもので製造時期が違うようだ。シルバーのものはボディがカメレオン風に処理されている。
 それでこれ、935であることは間違いないと思うが、ワークスマシンとは特徴が一致しないのでK3かな(適当)。
[写真] FE PORSCHE 935
935

Slant Nose
 Slant Nose(日本ではフラットノーズ)は見た目の通り、935のボディにヒントを得て作られたものだった。最初の一台は1981年に工場内のレストレーション・ショップで作られ、7月16日に出荷されている。最初は特別注文車として作られ、935同様ライトはエアダムの中に入っていたが、85年型からリトラクタブル・ヘッドライトが標準となった。
930 Turbo Slant Nose
 87年型からM506という正式なオプション番号が与えられ、特別限定版として製造された。フェンダー上のライトの後ろには、フェンダー内の空気を抜くスリッドが開いており、935風のサイドステップの後方には特徴的な空気取り入れ口が設けられた。大型のオイルクーラーをフロントバンパーに備え、改良によってエンジン出力も上がっていた。フラットノーズは初期から数えて237台作られた。
[写真] Hot Wheels PORSCHE 930 TURBO Slant Nose

 グループ5の終わりとともに935の天下も終わりを告げたが、この後ポルシェは956というモンスター・マシンを生み出し、再びサーキットを独占することになる。956/962の時代が過ぎたあと、時代は変わりかつてのような勢いはなくなったものの911GT1でルマンを制覇、そしてポルシェはレース活動から撤退した。もしポルシェがレースを続けていれば、今ごろカレラGTが走っていたかもしれない。かといって前のように勝てるとは限らないが。しかしポルシェ・モータースポーツ・ノース・アメリカとペンスキー・モータースポーツが組んで2006年アメリカン・ルマン・シリーズに向けてレーシングカーを作るという話が浮上している。LMP2クラスに出るという話らしい。ポルシェがレースに復帰するのもそう遠くないかもしれない。

Porsche chassis numbers
今回大きく参考にしたサイト。シャーシナンバーから車一台一台の歴史が書かれている。
classicscars.com
元サイトさま

 久しぶりに実車の方に重点を置いた特集を書いてみた。ここで色々まとめた分を常設展の方に反映したいと思う(そのうち)。
タイトル

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