PORSCHE
信沢 保の
PORSCHE 特集
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特集では、メインのページだけでは紹介しきれないことを、解説していきます。


2004/9月号
夢の911



希望は捨てるべからず
 ミニカーに夢中の少年の写真がある。彼らは今どうしているだろうか。そして幼き頃の姿を今誰かに見られていると想像がつくだろうか。

 1994年頃だったと思う。僕が小学校に上がった頃だった。ニュー911「993」がデビューした時だ。父親に別冊CGの911の本を貰った。その瞬間のことは記憶の中で湾曲しながらも、まだぼんやりと覚えている。色は黒で、表紙にはデビューしたての黄色の993が映っていた。その本は、当時ボロボロになるまで愛読していた「I LOVE PORSCHE」と並んでお気に入りになった。
 どちらの本でも特にお気に入りなのが、ポルシェのミニカーを特集したページだ。911の本には色違いでたくさんのトミカが並んでいた。特に911Sのバリエーションは間違い探しのようだ。僕はいつもそれを眺めていた。欲しいという欲求はあったが、それらのモデルはすでに古くなっており、手に入れることなどできない。そして古い1/43の911も載っていた。ナローの時代に作られたこれも古いモデルで、自分には到底手に届かない物だった。

 ダイヤカットのガラスがヘッドライトに入っている。当時流行った手法だ。ウィンカーの形状は左右非対称だ。

 それから月日は流れ、いつ頃だっだろうか。今となっては定かではない。お小遣いを貰い始めた頃かもしれないし、そうじゃないかもしれない。お小遣いを貰い始めたのもいつだか分からない。
 その模型屋はとても近所にあり、それまでも父親と何度も訪れていた。ショーケースのミニカーや鉄道模型を見に来るためだ。その日、僕はプラモデルでも見に行ったのだろうか。ショーケースの中には3000円の964カップカーが数種類並んでいる。
 その時、僕は見覚えのある初めて見る物を発見した。それはあの911の本に載っていた古いナロー911のミニカーだ。半分開いている窓が特徴的なモデルだ。色は黄土色のような黄色だった。それはショーケースに並んでいた。箱に貼られた値札を見てみると、その価格は2000円。決して買えない値段ではない。

 細かいパーツに至るまで金属でできている。この時代の花形モデルは911Sだ。

 少し経って再び模型屋へ行った。その時の心境は定かではないが、売れていないか心配して行ったのか、実際に買いに行ったのか。少なくともその時その911は僕の物にはならなかった。僕は再び値札を確認した。
 20000円
 僕は数字の読み方を間違っていた。911は2000円などという甘い価格ではなかったのだ。ゼロを一つ数え間違えるという、定番のミスを犯していた。その瞬間911は僕の目の前から遠くへ飛んでいってしまった。
 しかし僕はまだ諦めていなかったらしい。そして相当欲しがっていたようだ。一度手に入ると思い込んでいたから諦めきれなかったのだろう。誕生日だか、クリスマスだか知らないが、僕はプレゼントにその911をねだることにした。それまでのプレゼントの中では最も高額な商品だ。お年玉も要らないとか、誕生日とクリスマスを一緒にするとかという条件を出した気がする。しかし高い買い物ゆえ母はいい返事を返さなかった。
 頼みの綱は父親だった。父なら20000円という値段も理解してくれるだろうと踏んだ。
 しかし父の答えもNOであった。古いモデルを高い値段で買う必要はない。現行で買った物を大切に持っていてミニカーは古くなる物だと説教をされてしまった。
 かくして僕は911を手にすることは出来なかった。その911は模型屋のショーケースでまたしばらく過ごすことになった。

 ホンウェルの996が開きかけのサイドウィンドウを持っていると知った時、僕はすぐにこの911を思い出した。

 僕は小学校、中学校を卒業し、高校生になった。その間にはホットウィール日本上陸や、トイズオフの発見などミニカー・コレクションに色々な出来事があった。ホットウィール・ブームが落ち着きを見せると、僕はチープミニカーの世界にのめり込んでいた。
 それは全く予想しない出来事だった。七月三日の誕生日も何事もなくスルーしたある日、父があの911のミニカーのことを口にしたのである。こんなに近くにあるのにポルシェ・マニア(僕のこと)が買えないのは可哀想だろうということだった。このチャンスを逃せばもう買えるチャンスはない。あると思って安心していると、結局買えなくなってしまうというのは、常日頃から言われてきたことだったし、自分でも経験していた。さらに父は908/3の話も持ち出した。
 そして両親と共に模型屋へ行った。小学生の記憶では一台しか置いていないようだったが、その911はショーケースの中に三台も並んでいた。それはテクノというデンマーク製のミニカーだった。店の人の話でも古い物であるようだった。

 箱には窓がつき、中のミニカーが見えるようになっている。箱にはそれなりの傷みがある。

 数日後、僕は911を買ってもらえることになった。買ってもらうといっても、僕が受け取ったのは三万円の封筒で、自分で買いに行けということだった。一万円多い理由はベストの908/3も一緒に買うためである。
 そうして僕はその911を手に入れた。三台の中から状態のいい物を選び、箱も一番綺麗な物にしてくれた。模型屋さんはオマケに1994年版の月刊ミニチュア・カーを三冊くれた。丁度993がデビューした頃。一月号では911特集でこのテクノの911も紹介されている。僕は更に外のショーウィンドウに飾ってあった911RSRターボのポスターを譲ってもらえないか話をしてみたが、中に入り込むのが大変だそうで、それなら無理しなくても結構ですと辞退してきた。
 このテクノというのはスウェーデンのメーカーで、911は71年に輸入された物であるらしい。父の話によれば、自分が中学の時にその模型屋ができた頃からずっと置いてあった物らしい。その年は輸入された年と一致していた。勿論当時は定価云千円だったと思うが、世の中の流れに影響を受けてか値上がりしたようだ。もしくは倉庫で眠っていた在庫を発見して店に並べたのだろうか。
 どちらにしろ、このミニカーは新品で仕入れられてから三十数年間、いくらも離れていない模型屋で眠っていたことになる。自分の倍も年上のミニカーを手に入れるというのは恐れ多いものがある。しかし僕のためにずっとこの911が待っていたと考えるのは、おかしいことだろうか。

 その後の911の進化を知らぬ時代に作られたミニカー。当時の多くの他メーカー品がドアー開閉などのギミック付きでプロポーションを崩しているが、テクノは非常に美しい形をしている。色は他にも赤があるが、やはり人気がありそうなのはこの黄色より赤の方だ。

 開閉ギミックはミニカーとしての一つの条件だったのだろうか。こうして写真を撮ってみるとポルシェのカタログ写真のようだ。リアフードの下にはフラット6が再現されている。

 実は別冊CGの911の本に出ていたトミカのいくつかについても、インターネットを通じて運良く手に入れることが出来た。青箱の911Sの金と銀、トミカのページでも一際輝いていた二台だ。モデルカーズのバックナンバーに載っていたイケダ特注のレース仕様の356についても、運良く三台とも揃えることが出来たのは幸運であった(一台は定価、二台は売れ残りを通常品以下の価格で入手)。イケダ特注も古い記事に載っている物だから、手に入ることはないと思っていたミニカーだった。
 それ以外にもポルシェの古いモデルや珍しいミニカーを、メールや掲示板でやりとりしている方々から手に入れることができた。このサイトで紹介しているマジョレットの924や、パイオニアのカレラGT、ホンウェルの904、プレイアートの914などがそうである。僕は非常に恵まれていた。自分一人だったら今のコレクションはなかっただろう。

 更なる出会いを求めて……

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